横島忠夫、清麿と出会う(後編) ◆n0WqfobHTU
ドットーレにとってこの戦い、清麿に負けて欲しくはなかった。
守ろうとした人間を殺し、不幸を呪い嘆く清麿が見たかっただけなのだから、あの人間にはむしろ適当な所でさくっと死んで欲しかった。
しかし、まるで意味が不明な執着から清麿を狙う彼は、なかなかに愉快な人材であると思いなおし始めていた。
自分の命を優先し、他者を踏みつけ被害者顔を隠そうともしない。実に、ドットーレの知る人間らしい人間であったのだ。
ドットーレの経験上、こういう人間は彼の振るタクトに合わせ、面白いように踊ってくれるものだ。
そこでドットーレは、不覚を取ったかと校庭の方へと目をやる。
校舎内の戦闘に注視しつつ、流された放送の事を考えていた為、ふらふらと歩み寄って来る人間に気付くのが遅れてしまった。
校庭脇、校舎側の鉄棒の上にぴょんとドットーレは飛び乗る。
「そこな人間。オレに用か?」
俯いたまま顔を上げようとしない人間、霧沢風子は、表情を前髪で隠しながら呟く。
「……おい、中でやりあってる内の一人は、ツレなんだけどさ……何でやりあってんのか理由をアンタは知ってるか?」
ドットーレは芝居がかった所作で大きく両腕を開く。
「ほう、あの人間の連れ合いか。ならば加勢してやるといい。あの人間が中の清麿を殺せれば、命だけは助けてやる約束なんでな」
風子は、首元をかきながら首を小さく傾げる。
「あー、そりゃー、つまり、あれか。てめぇは見た瞬間感じたように、どうしようもねえクソッタレ野朗だって事でいいのか?」
「人間、侮蔑の言葉を並べるのは構わないが、相手は選ぶべきだぞ。オマエの連れ合いが何故言われるがままなのかを考え……」
ゆっくりと、風子は手にした剣を振り上げた。
「うるせえ! こっちゃあ虫の居所が悪ぃんだ! 加減なんざ出来ねぇからせいぜい本気で避けやがれ!」
風神剣より風の渦が放たれ、ドットーレが立っていた鉄棒をただの一撃で吹き飛ばした。
守ろうとした人間を殺し、不幸を呪い嘆く清麿が見たかっただけなのだから、あの人間にはむしろ適当な所でさくっと死んで欲しかった。
しかし、まるで意味が不明な執着から清麿を狙う彼は、なかなかに愉快な人材であると思いなおし始めていた。
自分の命を優先し、他者を踏みつけ被害者顔を隠そうともしない。実に、ドットーレの知る人間らしい人間であったのだ。
ドットーレの経験上、こういう人間は彼の振るタクトに合わせ、面白いように踊ってくれるものだ。
そこでドットーレは、不覚を取ったかと校庭の方へと目をやる。
校舎内の戦闘に注視しつつ、流された放送の事を考えていた為、ふらふらと歩み寄って来る人間に気付くのが遅れてしまった。
校庭脇、校舎側の鉄棒の上にぴょんとドットーレは飛び乗る。
「そこな人間。オレに用か?」
俯いたまま顔を上げようとしない人間、霧沢風子は、表情を前髪で隠しながら呟く。
「……おい、中でやりあってる内の一人は、ツレなんだけどさ……何でやりあってんのか理由をアンタは知ってるか?」
ドットーレは芝居がかった所作で大きく両腕を開く。
「ほう、あの人間の連れ合いか。ならば加勢してやるといい。あの人間が中の清麿を殺せれば、命だけは助けてやる約束なんでな」
風子は、首元をかきながら首を小さく傾げる。
「あー、そりゃー、つまり、あれか。てめぇは見た瞬間感じたように、どうしようもねえクソッタレ野朗だって事でいいのか?」
「人間、侮蔑の言葉を並べるのは構わないが、相手は選ぶべきだぞ。オマエの連れ合いが何故言われるがままなのかを考え……」
ゆっくりと、風子は手にした剣を振り上げた。
「うるせえ! こっちゃあ虫の居所が悪ぃんだ! 加減なんざ出来ねぇからせいぜい本気で避けやがれ!」
風神剣より風の渦が放たれ、ドットーレが立っていた鉄棒をただの一撃で吹き飛ばした。
校舎内でバトっていた清麿と横島の二人は、それ故外の異常に気付くのが少し遅れてしまった。
それでも風神剣の轟音はきっちりと二人に届いてくれた。
ドットーレが何者かと戦闘している。
そう察した二人は、どちらからともなく戦闘を中断して校庭へと向かう。当然、互いに隙を見せるような真似はしないままだが。
まず、それを目にして声を出したのは横島だ。
「風子ちゃん!? ちょっ! マズイってソイツはヤバイ! 可及的速やかに逃げろ!」
「うるせえ腰抜け! こんなふざけた面の奴にあっさり脅されてんじゃねえよ!」
「顔はふざけててもマジで強いんだって……あーーー! ち、違うっすよ! ふざけてっていうかふざけてると思える程にクールというか痺れるというか! いやもうマジ惚れる顔っす! 俺が女なら間違いなくふぉーりんらぶっすよ旦那!」
こんな時でも下僕の立場は忘れないナイスガイ横島。
風子とドットーレの戦闘だが、風子は風神剣を縦横に振るい放つ飛び道具、風神波によりドットーレの近接を決して許さない。
ドットーレの足の速さは折り紙つきだが、それでも飛び道具を用いた中長距離戦闘に長けた風子の連撃に、不用意に踏み込む事も出来ないのだ。
「クソッ! クソッ! ふざけた事ぬかしやがってどいつもこいつも!」
風子の攻撃は止まらない。
ドットーレは安全に回避出来る間合いを保ち、じっくりと攻略の糸口を探す構えであるのだが、一切関係なく風神波を放ち続ける。
「みーちゃんがヤられただと!? ありえるか馬鹿野朗! あの陰険で根暗な上頭が良くて敵には容赦が無いみーちゃんをどうやったらヤれるってんだよ!」
風神波に変化が生じる。
三日月状であった衝撃波が、渦を巻き、柱のようにまっすぐ昇り進んで行くのだ。
「烈火が負ける訳ねえだろ! 馬鹿みたいに次々と龍出してきやがって! あんなのどうやったって倒せるわきゃねえっての!」
大地を抉るような竜巻は一直線にドットーレへと向かっていくが、ドットーレは大きくこれを飛び越える。
「人間! 中々楽しめたがこれまでだ!」
何とドットーレは、放たれた竜巻の上を、その足で駆け抜けていったのだ。
「フハハハハ! 押し固めた人間玉を崩さぬよう転がすよりよほどこちらの方が楽だぞ!」
風子は竜巻を放つべく突き出した風神剣より、力を放つのをとめる。が、遅い。ドットーレは既に風子の近接間合いにある。
「ぐちゃぐちゃうるせえっつってんだよ!」
逆袈裟、というにはあまりに乱雑な斬り上げにて風子はドットーレを狙うが、ドットーレはこの剣筋を容易く見切り、ひらりと両の足で剣先に着地する。
まるで体重が無いかの如き動きだが、剣を手にしている風子はその重さ故剣を動かす事も出来ない。
後はドットーレが足を前に突き出せばそれでおしまいだ。
しかし、風子は尚も動いていた。
ドットーレが剣先に着地する為意識をそちらに集中した瞬間、目的を剣撃から投げに変化させる。
この辺りの判断の速さは考えてやっているものではあるまい。そも考えてから動いては間に合わない。
体がそう反応した。そう出来る程に、風子は自らを鍛えていたのだ。
この反射というもの、ともすれば電気信号のやり取りのみである機械をすら上回る速度があるというのだから、人間の持つ可能性というものは果てしないものだ。
中途まで振り上げた剣の下に自らの体を潜り込ませると、背負い投げの要領で剣を担ぐ。
こう動けば、剣の上に立つドットーレは足で風子を狙う事が出来ない。
ならば伸びる腕で、そう動く前に風子の剣越し背負い投げが炸裂する。
それだけならばドットーレに損害を与える事は不可能であったろう。
しかしこの剣は風神剣。如何なドットーレとて足元より衝撃を放たれては完璧にかわしきるなぞ不可能であろう。
そのまま、放たれた衝撃波に巻き込まれ体育用具室に叩き込まれるドットーレ。
風子は、そこで攻撃の手を緩める事は無かった。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! てめぇらどいつもこいつも人をコケにしやがって! 私をなめた奴ぁ皆ブッ殺してやるああああああああああ!!」
風子の怒鳴り声、そして鬼気迫る表情を見た横島の顔色が変わる。
それは清麿に一つの景色を連想させた。
慌てた口調で清麿が叫ぶ。
「おいっ! あの子なんかおかしくないか!? あれは幾らなんでも普通じゃないだろ!」
慌てた口調なのは横島も一緒だ。
「俺もそんなにあの子知ってるわけじゃないけど……でも、確かにおかしい。おいっ! 風子ちゃんどうしたんだよ! ちょっと落ち着いてってば!」
しかし、横島の言葉も聞こえないのか風子の表情が見る間に変化していき、それは、ヒトのそれとはかけ離れて見える程眉尻の吊り上ったモノとなる。
正気を失って見える少女。
清麿は、かつて助ける事が出来なかった、一人の小さな魔物の子を思い出す。
風子がその子と重なって見えた瞬間、清麿の脳裏より計算が全て吹っ飛んでしまう。
その時相棒のガッシュがその子にしてあげたように、清麿もまた、夢中で飛び出し、風神剣を振り上げた風子の前に両手を広げ立ちはだかったのだ。
「駄目だああああああああああああああ!」
それでも風神剣の轟音はきっちりと二人に届いてくれた。
ドットーレが何者かと戦闘している。
そう察した二人は、どちらからともなく戦闘を中断して校庭へと向かう。当然、互いに隙を見せるような真似はしないままだが。
まず、それを目にして声を出したのは横島だ。
「風子ちゃん!? ちょっ! マズイってソイツはヤバイ! 可及的速やかに逃げろ!」
「うるせえ腰抜け! こんなふざけた面の奴にあっさり脅されてんじゃねえよ!」
「顔はふざけててもマジで強いんだって……あーーー! ち、違うっすよ! ふざけてっていうかふざけてると思える程にクールというか痺れるというか! いやもうマジ惚れる顔っす! 俺が女なら間違いなくふぉーりんらぶっすよ旦那!」
こんな時でも下僕の立場は忘れないナイスガイ横島。
風子とドットーレの戦闘だが、風子は風神剣を縦横に振るい放つ飛び道具、風神波によりドットーレの近接を決して許さない。
ドットーレの足の速さは折り紙つきだが、それでも飛び道具を用いた中長距離戦闘に長けた風子の連撃に、不用意に踏み込む事も出来ないのだ。
「クソッ! クソッ! ふざけた事ぬかしやがってどいつもこいつも!」
風子の攻撃は止まらない。
ドットーレは安全に回避出来る間合いを保ち、じっくりと攻略の糸口を探す構えであるのだが、一切関係なく風神波を放ち続ける。
「みーちゃんがヤられただと!? ありえるか馬鹿野朗! あの陰険で根暗な上頭が良くて敵には容赦が無いみーちゃんをどうやったらヤれるってんだよ!」
風神波に変化が生じる。
三日月状であった衝撃波が、渦を巻き、柱のようにまっすぐ昇り進んで行くのだ。
「烈火が負ける訳ねえだろ! 馬鹿みたいに次々と龍出してきやがって! あんなのどうやったって倒せるわきゃねえっての!」
大地を抉るような竜巻は一直線にドットーレへと向かっていくが、ドットーレは大きくこれを飛び越える。
「人間! 中々楽しめたがこれまでだ!」
何とドットーレは、放たれた竜巻の上を、その足で駆け抜けていったのだ。
「フハハハハ! 押し固めた人間玉を崩さぬよう転がすよりよほどこちらの方が楽だぞ!」
風子は竜巻を放つべく突き出した風神剣より、力を放つのをとめる。が、遅い。ドットーレは既に風子の近接間合いにある。
「ぐちゃぐちゃうるせえっつってんだよ!」
逆袈裟、というにはあまりに乱雑な斬り上げにて風子はドットーレを狙うが、ドットーレはこの剣筋を容易く見切り、ひらりと両の足で剣先に着地する。
まるで体重が無いかの如き動きだが、剣を手にしている風子はその重さ故剣を動かす事も出来ない。
後はドットーレが足を前に突き出せばそれでおしまいだ。
しかし、風子は尚も動いていた。
ドットーレが剣先に着地する為意識をそちらに集中した瞬間、目的を剣撃から投げに変化させる。
この辺りの判断の速さは考えてやっているものではあるまい。そも考えてから動いては間に合わない。
体がそう反応した。そう出来る程に、風子は自らを鍛えていたのだ。
この反射というもの、ともすれば電気信号のやり取りのみである機械をすら上回る速度があるというのだから、人間の持つ可能性というものは果てしないものだ。
中途まで振り上げた剣の下に自らの体を潜り込ませると、背負い投げの要領で剣を担ぐ。
こう動けば、剣の上に立つドットーレは足で風子を狙う事が出来ない。
ならば伸びる腕で、そう動く前に風子の剣越し背負い投げが炸裂する。
それだけならばドットーレに損害を与える事は不可能であったろう。
しかしこの剣は風神剣。如何なドットーレとて足元より衝撃を放たれては完璧にかわしきるなぞ不可能であろう。
そのまま、放たれた衝撃波に巻き込まれ体育用具室に叩き込まれるドットーレ。
風子は、そこで攻撃の手を緩める事は無かった。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! てめぇらどいつもこいつも人をコケにしやがって! 私をなめた奴ぁ皆ブッ殺してやるああああああああああ!!」
風子の怒鳴り声、そして鬼気迫る表情を見た横島の顔色が変わる。
それは清麿に一つの景色を連想させた。
慌てた口調で清麿が叫ぶ。
「おいっ! あの子なんかおかしくないか!? あれは幾らなんでも普通じゃないだろ!」
慌てた口調なのは横島も一緒だ。
「俺もそんなにあの子知ってるわけじゃないけど……でも、確かにおかしい。おいっ! 風子ちゃんどうしたんだよ! ちょっと落ち着いてってば!」
しかし、横島の言葉も聞こえないのか風子の表情が見る間に変化していき、それは、ヒトのそれとはかけ離れて見える程眉尻の吊り上ったモノとなる。
正気を失って見える少女。
清麿は、かつて助ける事が出来なかった、一人の小さな魔物の子を思い出す。
風子がその子と重なって見えた瞬間、清麿の脳裏より計算が全て吹っ飛んでしまう。
その時相棒のガッシュがその子にしてあげたように、清麿もまた、夢中で飛び出し、風神剣を振り上げた風子の前に両手を広げ立ちはだかったのだ。
「駄目だああああああああああああああ!」
何もかもが憎くて憎くて仕方が無かった。
目に映るもの、聞こえて来る音、肌に触れる大気すら、不快で不快でしょうがない。
だから目の前に突然現れたソレが何なのか即座に判別はつかなかったが、邪魔であるという憎しみランクを一つ上げるファクターを有していたので、容赦なく、剣を振り下ろし砕いてやるつもりだった。
そんな風子の剣が止まったのは、どうしてだったのか。
彼女の心の何処かで、きっとこうしてくれる誰かが居る。そう、思っていたせいかもしれない。
そう信じられる、誰かが居てくれたせいかもしれない。
耳に届いた清麿の声が、彼でない他の、そいつの声なら聞いてやらなきゃならないと思える誰かの声に聞こえたのも、きっとそういう理由だったのだろう。
それでも風神剣の呪いを全てを弾ける程の強力な意志を、今の風子には望むべくもない。
「隙ありいいいいいいいいいいいい!」
だから、このほんの一瞬のみの勝機に、飛び込んで来た横島が風神剣を蹴り飛ばしたのは全くもって正しい。
例え強敵ドットーレとの対戦最中であろうと、清麿も、横島も、女の子が自我を失い暴れまわるような状態を、見過ごす事は出来ないのだから。
ケダモノのような直感で風神剣の危険さに気付き、見事蹴り飛ばす事に成功した横島は、そのまま意識を失い倒れる風子と、これに駆け寄る清麿の位置を確認する。
次に全壊した体育用具室よりドットーレがのそりと姿を現すのを目にする。
「やるしか……ねえよなぁ、これ」
これでも横島はゴーストスイーパーだ。風神剣より漂う危険な気配は百も承知。それでも、横島には風子には無い強烈無比な切り札が備わっている。
「たかが剣ごときが! 俺の煩悩を凌駕しうるものかよおおおおおおお!」
横島はそれとわかっていて風神剣を、その力を発揮すべく霊力を込めながら振り上げる。
途端、流れ込む殺意と害意と怨念の塊。
「ぼんのおおおおおおお! ぜんかああああああああああああい!」
シャワー口に顔を向け、水流の勢いにその身を晒す美神令子。バスルームならではの気安さか、惜しげもなく裸体を晒しながらもそこに羞恥の色は見られない。
極自然に、豊満にして珠玉なる果実を、地上三階の窓から覗き込む横島に晒していたりする。(直後、三階から殴り落とされた)
貸し出された一室で、仕事着に着替えるは小笠原エミだ。褐色の肌は人を選ぶというが、彼女に関してはその限りではなかろう。
それ自体が儀式であるかのように、厳かに一枚、また一枚と衣服を脱ぎ落とし、数多の死線をくぐってなお輝きを失わぬ肌を晒す。(この後ガチで呪われた)
驚いた顔の六道冥子。たっぷりとした丈の長いスカートは色気と無縁の彼女らしい装いであるが、如何なる神の気まぐれか、春一番に煽られて、そんなスカートすら大きくまくれてしまう。
そのままなら、よほど小さな子供でもなくば中の確認は出来ぬだろうが、視点を下に持っていければ、中の、それも下着をかっちりと確認しうるだろう。(式神に略)
横島忠夫の何が凄いかといえば、如何な緊張状態にあってもこんなタワケた妄想を一瞬で脳内に展開出来る所であろう。
切り替えが早いとかそーいう次元では最早語れぬ無茶さである。
横島の精神を犯さんと襲い来る風神剣の意志は、例え器物であろうと近寄るのが嫌であろうもーそーに阻まれ、横島はただその力のみを行使する。
『上手い事コントロールして、風子ちゃんとアイツを一緒にふっ飛ばせば……』
自分が助かる為に清麿を犠牲にするのは構わないが、流石に女の子を巻き込むのは本意ではない模様。
風神剣の力で二人を吹き飛ばし、何とか逃がしてやろうと横島は狙っていたのだ。
が、そんな意思疎通がなされているわけではない清麿は、横島の善意を欠片も信じず、ただこの子を守る為、襲い来る風の衝撃波の範囲から風子を突き飛ばし離したのだ。
『おいいいいいいいいい!? オマエどんだけ自己犠牲精神に満ち溢れて……いやっ! オマエ! 突き飛ばす時風子ちゃんのおっぱい触ってたろ! 何てクズだ! こんな時にふざけた事しやがって俺と代われ!』
無論清麿は突き飛ばすのが目的であって、胸云々は所謂事故である。
ともかく、横島がコントロールしたおかげか、殺傷能力を落としたまま風の衝撃は清麿を校庭の外にまで吹っ飛ばしてしまった。
距離にして数十メートルは飛んでいる。普通の人間ならその飛んだ勢いだけで、結果を見るまでもなく即死であろう。
だが、横島は校庭と外とを分かつ壁の向こう側に、クッションとなる雑草が鬱蒼と茂る空き地を見つけてあったのだ。
後は清麿の運次第であろう。
予定が著しく狂った横島であったが、ともかくまずは何よりも先にせねばならぬ事がある。
「旦那見ましたか! 俺の勝ちっすよ! これで俺は助けてもらえるんっすよね!」
自らの命の確認である。
ドットーレは小首を傾げたまま、ひょこひょこと奇妙な歩き方で横島に歩み寄ってくる。
「なあ人間。オレには意味がわからないんだが、何故清麿はあそこでオレを庇うような真似をしたのだ? それに、その女がいきなり倒れたのはどういう訳だ?」
横島は、言われて初めて、それがドットーレに理解出来ない理由に思い至った。
「はあ、アイツ、きよまろっていうんですか? アイツは単純に女の子助けたかっただけだと思いますよ。後、そこの子が倒れたのは、ほら、この剣使ったせいだと思います」
何の気なしに横島が握っている剣を、ドットーレはしげしげと見つめる。
「……ふむ、これを使えば風が出るのはわかったが、倒れるのは何故だ?」
「理屈はわかりません。だけど俺が使った時は、何かこわせーとかころせーとかそういう声が聞こえた気がしますから、その辺が何か関係あるかも……」
ならば、とドットーレは風神剣を横島から受け取り、大きく振るってみた。
何も起こらない。
もう一度。
やはり、何も起こらない。
ちらっと横島を見た後、三度振るい、それでも何も起こらなかった。
ドットーレは無言のまま横島の襟首を掴み、捻り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってぷりーず! 悪いの剣! 俺違う! 俺何もしてない!」
「……ふん、人間でなくば扱えぬ道具、とでもいうのか?」
横島はそこで、さっきからずーーーーーーっと気になっていた事を問うた。
「あの、ドットーレの旦那。旦那、もしかして人間じゃ、ないっすか?」
「当たり前だ。俺は誇り高き自動人形だぞ。人間なぞと一緒にするな」
あーなるほど、と横島はぽんと手を叩く。
「多分っすけど、この剣霊力とか魔力とかに反応するみたいですね。だからそーいうのが無いと、使うに使えないって話かなーって」
人形が自動で動く不思議はガンスルー出来るらしい横島。というか馴染みすぎである。人外に好かれる男の名は伊達ではないという事か。
剣に関する解説も、厳密に言えば横島の解釈は誤っているのだが、それでも一応現状では話が通ってしまうのでドットーレも問題視せず、興味は失せたとばかりに横島へ風神剣を放り渡す。
「へ?」
「オレが持っていていも仕方無いのだろう。お前にくれてやる」
こんないつ発狂するかわからんような剣、出来れば横島も持っていたくはない。
「い、いえいえ、俺はほら、もう銃とか預かってますし……」
「どちらも俺には不要なモノだ。それに、お前にはこれから存分に活躍してもらうつもりでいるからな」
「は?」
ドットーレは横島の眼前で顔を大きく歪める。
「人間にはゆらぎがある。それは、しろがね程人間を捨てた者にもあってしまう、人間には抗いようのない弱点だ」
「はぁ」
「ましてやしろがねでない者ならば、そのゆらぎは大きく幅広い。そうして本来の実力を発揮する事なく敗れる口惜しさ、惨めさは、筆舌に尽くしがたいそうな」
「(何かすげぇタチ悪い事言い出しそうな雰囲気なんですけどー)はぁ」
「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」
目に映るもの、聞こえて来る音、肌に触れる大気すら、不快で不快でしょうがない。
だから目の前に突然現れたソレが何なのか即座に判別はつかなかったが、邪魔であるという憎しみランクを一つ上げるファクターを有していたので、容赦なく、剣を振り下ろし砕いてやるつもりだった。
そんな風子の剣が止まったのは、どうしてだったのか。
彼女の心の何処かで、きっとこうしてくれる誰かが居る。そう、思っていたせいかもしれない。
そう信じられる、誰かが居てくれたせいかもしれない。
耳に届いた清麿の声が、彼でない他の、そいつの声なら聞いてやらなきゃならないと思える誰かの声に聞こえたのも、きっとそういう理由だったのだろう。
それでも風神剣の呪いを全てを弾ける程の強力な意志を、今の風子には望むべくもない。
「隙ありいいいいいいいいいいいい!」
だから、このほんの一瞬のみの勝機に、飛び込んで来た横島が風神剣を蹴り飛ばしたのは全くもって正しい。
例え強敵ドットーレとの対戦最中であろうと、清麿も、横島も、女の子が自我を失い暴れまわるような状態を、見過ごす事は出来ないのだから。
ケダモノのような直感で風神剣の危険さに気付き、見事蹴り飛ばす事に成功した横島は、そのまま意識を失い倒れる風子と、これに駆け寄る清麿の位置を確認する。
次に全壊した体育用具室よりドットーレがのそりと姿を現すのを目にする。
「やるしか……ねえよなぁ、これ」
これでも横島はゴーストスイーパーだ。風神剣より漂う危険な気配は百も承知。それでも、横島には風子には無い強烈無比な切り札が備わっている。
「たかが剣ごときが! 俺の煩悩を凌駕しうるものかよおおおおおおお!」
横島はそれとわかっていて風神剣を、その力を発揮すべく霊力を込めながら振り上げる。
途端、流れ込む殺意と害意と怨念の塊。
「ぼんのおおおおおおお! ぜんかああああああああああああい!」
シャワー口に顔を向け、水流の勢いにその身を晒す美神令子。バスルームならではの気安さか、惜しげもなく裸体を晒しながらもそこに羞恥の色は見られない。
極自然に、豊満にして珠玉なる果実を、地上三階の窓から覗き込む横島に晒していたりする。(直後、三階から殴り落とされた)
貸し出された一室で、仕事着に着替えるは小笠原エミだ。褐色の肌は人を選ぶというが、彼女に関してはその限りではなかろう。
それ自体が儀式であるかのように、厳かに一枚、また一枚と衣服を脱ぎ落とし、数多の死線をくぐってなお輝きを失わぬ肌を晒す。(この後ガチで呪われた)
驚いた顔の六道冥子。たっぷりとした丈の長いスカートは色気と無縁の彼女らしい装いであるが、如何なる神の気まぐれか、春一番に煽られて、そんなスカートすら大きくまくれてしまう。
そのままなら、よほど小さな子供でもなくば中の確認は出来ぬだろうが、視点を下に持っていければ、中の、それも下着をかっちりと確認しうるだろう。(式神に略)
横島忠夫の何が凄いかといえば、如何な緊張状態にあってもこんなタワケた妄想を一瞬で脳内に展開出来る所であろう。
切り替えが早いとかそーいう次元では最早語れぬ無茶さである。
横島の精神を犯さんと襲い来る風神剣の意志は、例え器物であろうと近寄るのが嫌であろうもーそーに阻まれ、横島はただその力のみを行使する。
『上手い事コントロールして、風子ちゃんとアイツを一緒にふっ飛ばせば……』
自分が助かる為に清麿を犠牲にするのは構わないが、流石に女の子を巻き込むのは本意ではない模様。
風神剣の力で二人を吹き飛ばし、何とか逃がしてやろうと横島は狙っていたのだ。
が、そんな意思疎通がなされているわけではない清麿は、横島の善意を欠片も信じず、ただこの子を守る為、襲い来る風の衝撃波の範囲から風子を突き飛ばし離したのだ。
『おいいいいいいいいい!? オマエどんだけ自己犠牲精神に満ち溢れて……いやっ! オマエ! 突き飛ばす時風子ちゃんのおっぱい触ってたろ! 何てクズだ! こんな時にふざけた事しやがって俺と代われ!』
無論清麿は突き飛ばすのが目的であって、胸云々は所謂事故である。
ともかく、横島がコントロールしたおかげか、殺傷能力を落としたまま風の衝撃は清麿を校庭の外にまで吹っ飛ばしてしまった。
距離にして数十メートルは飛んでいる。普通の人間ならその飛んだ勢いだけで、結果を見るまでもなく即死であろう。
だが、横島は校庭と外とを分かつ壁の向こう側に、クッションとなる雑草が鬱蒼と茂る空き地を見つけてあったのだ。
後は清麿の運次第であろう。
予定が著しく狂った横島であったが、ともかくまずは何よりも先にせねばならぬ事がある。
「旦那見ましたか! 俺の勝ちっすよ! これで俺は助けてもらえるんっすよね!」
自らの命の確認である。
ドットーレは小首を傾げたまま、ひょこひょこと奇妙な歩き方で横島に歩み寄ってくる。
「なあ人間。オレには意味がわからないんだが、何故清麿はあそこでオレを庇うような真似をしたのだ? それに、その女がいきなり倒れたのはどういう訳だ?」
横島は、言われて初めて、それがドットーレに理解出来ない理由に思い至った。
「はあ、アイツ、きよまろっていうんですか? アイツは単純に女の子助けたかっただけだと思いますよ。後、そこの子が倒れたのは、ほら、この剣使ったせいだと思います」
何の気なしに横島が握っている剣を、ドットーレはしげしげと見つめる。
「……ふむ、これを使えば風が出るのはわかったが、倒れるのは何故だ?」
「理屈はわかりません。だけど俺が使った時は、何かこわせーとかころせーとかそういう声が聞こえた気がしますから、その辺が何か関係あるかも……」
ならば、とドットーレは風神剣を横島から受け取り、大きく振るってみた。
何も起こらない。
もう一度。
やはり、何も起こらない。
ちらっと横島を見た後、三度振るい、それでも何も起こらなかった。
ドットーレは無言のまま横島の襟首を掴み、捻り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってぷりーず! 悪いの剣! 俺違う! 俺何もしてない!」
「……ふん、人間でなくば扱えぬ道具、とでもいうのか?」
横島はそこで、さっきからずーーーーーーっと気になっていた事を問うた。
「あの、ドットーレの旦那。旦那、もしかして人間じゃ、ないっすか?」
「当たり前だ。俺は誇り高き自動人形だぞ。人間なぞと一緒にするな」
あーなるほど、と横島はぽんと手を叩く。
「多分っすけど、この剣霊力とか魔力とかに反応するみたいですね。だからそーいうのが無いと、使うに使えないって話かなーって」
人形が自動で動く不思議はガンスルー出来るらしい横島。というか馴染みすぎである。人外に好かれる男の名は伊達ではないという事か。
剣に関する解説も、厳密に言えば横島の解釈は誤っているのだが、それでも一応現状では話が通ってしまうのでドットーレも問題視せず、興味は失せたとばかりに横島へ風神剣を放り渡す。
「へ?」
「オレが持っていていも仕方無いのだろう。お前にくれてやる」
こんないつ発狂するかわからんような剣、出来れば横島も持っていたくはない。
「い、いえいえ、俺はほら、もう銃とか預かってますし……」
「どちらも俺には不要なモノだ。それに、お前にはこれから存分に活躍してもらうつもりでいるからな」
「は?」
ドットーレは横島の眼前で顔を大きく歪める。
「人間にはゆらぎがある。それは、しろがね程人間を捨てた者にもあってしまう、人間には抗いようのない弱点だ」
「はぁ」
「ましてやしろがねでない者ならば、そのゆらぎは大きく幅広い。そうして本来の実力を発揮する事なく敗れる口惜しさ、惨めさは、筆舌に尽くしがたいそうな」
「(何かすげぇタチ悪い事言い出しそうな雰囲気なんですけどー)はぁ」
「という訳でだ。次なる遭遇者と出会う時、オマエ、そこの女を遭遇者の眼前で犯せ」
ハーレルヤ♪ ハーレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレールヤー♪
一瞬、完全に意識が吹っ飛んでしまった横島君家の忠夫さん。
「おかせって! 俺に! その子を! つまりあんな事やこんな事やそーんな事までやっちまえって事ですかい!」
「……いや、そーいう話だが。お前、何故に鼻から血が噴出しているのだ?」
「嘘だ! こんな都合の良い話があるはずがない! だって俺は今生き死にの場に追い詰められ地獄の最中を漂ってるはずなのに! どうしてここで! 男子一生の本懐! 楽園の入り口! 童貞喪失パレードが待ち構えているというのかああああああああああ!」
「…………喜んで、いるのか? あまり人前でする行為ではない、と認識していたのだが……」
「ああ、心が痛い! 心底痛む! こんな破廉恥で非道な行為! 断じて許されるはずないが命がかかっていては仕方があるまい!
ああ、仕方が無いのだよ! そうヤってしまえばきっと俺も風子ちゃんも命は助けてもらえるだろう! つまり人命救助故致し方なし!
命の危機という時に人工呼吸を惜しむ者が居ようか!? いや居まい! ならばこの行為こそが今この場で唯一の正義となるっ!」
ドットーレはもうこれに付き合うのが面倒になってきたので、放置しつつ名簿とさっきの放送内容を見比べてたりする。
「ふっ、悪いなお前ら。俺は一足お先に大人の階段、昇らせてもらうぜ。なぁに、最初は嫌がっていても、いずれ俺無しではいられない体になっちまうのさ……くっくっくっくっく……あー! 一度こういう台詞言ってみたかったんだあああああああああ!」
突然、横島はドットーレの前に土下座をして見せた。
「何?」
「ドットーレの旦那あああああああああ! この横島一生のお願いであります! どうか! 次に誰かと会った時なんて言わず! 今すぐにヤらせてくだせえええええええええ! 俺のこの盛り上がりきったパッションは最早留まる事を知らないんでさああああああああああ!」
ドットーレは眉根を寄せる。
「減るものでなし、そんなにしたいのなら別に構わんが、向こうでやれよ。実際目にした事はあるが、何が楽しいのかオレにはさっぱりわからんだけに、何時までも見ていると腹が立ってくるのでな」
ドットーレは横島の申し出を快く受け入れる。彼の人倫にもとる要求は、そこから推測される彼の人間性は、ドットーレがこれより人間達に仕掛けんとする様々な罠を実行するに素晴らしい助けとなりえる。
ただ殺して回るなど愚の骨頂。誰よりも真夜中のサーカスの一員であるドットーレが、楽しみを追求する心は何時如何なる時でも失われたりしないのだ。
ものっそいスピードで風子を抱えて走る横島を、ドットーレは侮蔑の視線で見送るのみであった。
「おかせって! 俺に! その子を! つまりあんな事やこんな事やそーんな事までやっちまえって事ですかい!」
「……いや、そーいう話だが。お前、何故に鼻から血が噴出しているのだ?」
「嘘だ! こんな都合の良い話があるはずがない! だって俺は今生き死にの場に追い詰められ地獄の最中を漂ってるはずなのに! どうしてここで! 男子一生の本懐! 楽園の入り口! 童貞喪失パレードが待ち構えているというのかああああああああああ!」
「…………喜んで、いるのか? あまり人前でする行為ではない、と認識していたのだが……」
「ああ、心が痛い! 心底痛む! こんな破廉恥で非道な行為! 断じて許されるはずないが命がかかっていては仕方があるまい!
ああ、仕方が無いのだよ! そうヤってしまえばきっと俺も風子ちゃんも命は助けてもらえるだろう! つまり人命救助故致し方なし!
命の危機という時に人工呼吸を惜しむ者が居ようか!? いや居まい! ならばこの行為こそが今この場で唯一の正義となるっ!」
ドットーレはもうこれに付き合うのが面倒になってきたので、放置しつつ名簿とさっきの放送内容を見比べてたりする。
「ふっ、悪いなお前ら。俺は一足お先に大人の階段、昇らせてもらうぜ。なぁに、最初は嫌がっていても、いずれ俺無しではいられない体になっちまうのさ……くっくっくっくっく……あー! 一度こういう台詞言ってみたかったんだあああああああああ!」
突然、横島はドットーレの前に土下座をして見せた。
「何?」
「ドットーレの旦那あああああああああ! この横島一生のお願いであります! どうか! 次に誰かと会った時なんて言わず! 今すぐにヤらせてくだせえええええええええ! 俺のこの盛り上がりきったパッションは最早留まる事を知らないんでさああああああああああ!」
ドットーレは眉根を寄せる。
「減るものでなし、そんなにしたいのなら別に構わんが、向こうでやれよ。実際目にした事はあるが、何が楽しいのかオレにはさっぱりわからんだけに、何時までも見ていると腹が立ってくるのでな」
ドットーレは横島の申し出を快く受け入れる。彼の人倫にもとる要求は、そこから推測される彼の人間性は、ドットーレがこれより人間達に仕掛けんとする様々な罠を実行するに素晴らしい助けとなりえる。
ただ殺して回るなど愚の骨頂。誰よりも真夜中のサーカスの一員であるドットーレが、楽しみを追求する心は何時如何なる時でも失われたりしないのだ。
ものっそいスピードで風子を抱えて走る横島を、ドットーレは侮蔑の視線で見送るのみであった。
意識を失ったままあどけない顔で横たわる風子。
彼女を教室の一室に連れ込んだ横島は、何時だったか見たアダルトビデオのワンシーンを思い出す。
見慣れぬ学校は、何処かわざとらしさが感じられる舞台装置のようで、ここで本当に生徒達が授業を受けているというのが信じられなくなってくる。
実際、タダのセットなのかもしれない。それでも、胸元を薄く上下させる風子は、セットでも舞台装置でもただ見る事しか出来ぬビデオでもない。
ごくりと生唾を飲み込む横島。
その手が、ゆっくりと風子のシャツの裾に触れ、止まる。
彼なりの葛藤があるのだろう。
その位置からぴくりとも動かぬまま時が過ぎるが、唐突に、横島が叫びだした。
「っていうか無理っ! 据え膳食わないとかこの横島忠夫にそんな真似ありうるかボケえええええええええええええ!」
ぐあばっと風子にのしかかりかけた所で、横島は後頭部を強打された。
「ごふぁああああああ!」
「こ、こんな下衆野朗、見た事が無い……それでも、殺すなんて出来るはずもないか」
完全に意識を失いひっくり返った横島を他所に、突如現れ横島の後頭部をぶん殴った清麿は、風子をゆすぶり意識を取り戻させる。
当初、呆とした意識のまま清麿の話を聞いたため、風子はひどく動揺していたのだが、そこはそれ、意識がはっきりしていくなり自分を取り戻していくのは流石に荒事慣れしてるだけはある。
すぐにやらなければならない事が山積みだったので、迷ったり悩んだりしている暇が無いというのも良い方向に働いたようだ。
情報交換もそこそこに、最低限やるべき事だけを確認する清麿と風子。
ドットーレが校舎の外で何やらしている間に、清麿と風子はぶっ倒れた横島を抱えてこの場を逃げ出した。
「おい、清麿っつったよな。まともに追われたら逃げ切れねえぞ」
「わかってる。手は用意してあるさ」
清麿が校舎内に入り込めたのは、学校内の地下下水施設を伝ってきたおかげであった。
なので、出る時もこれを用いた訳だ。
「へぇ、良くこんなの見つけたな」
「この小学校は調べつくしておいたからね。拠点に出来ればと思ったんだけど……もう無理か。ともかく、一度この場所を離れないと」
「わかった。……一応、先に聞いとくけど、コイツどうする?」
コイツこと横島の所業を、風子は清麿から伝え聞いている。
スケベで腰抜けで根性無しの外道とか、どうすればいいんだと。
「……放逐するには危険すぎる。となると連れて行くしかないんだよなぁ……」
「ま、これ以上悪さ出来ないよう痛めつけておくってのが妥当な所じゃねえのか」
そうだな、と頷いた清麿の表情が、何かちょっとそれまでとは雰囲気が違かったので、風子は一度清麿の顔を見直したが、別段変な顔はしていなかった。
彼女を教室の一室に連れ込んだ横島は、何時だったか見たアダルトビデオのワンシーンを思い出す。
見慣れぬ学校は、何処かわざとらしさが感じられる舞台装置のようで、ここで本当に生徒達が授業を受けているというのが信じられなくなってくる。
実際、タダのセットなのかもしれない。それでも、胸元を薄く上下させる風子は、セットでも舞台装置でもただ見る事しか出来ぬビデオでもない。
ごくりと生唾を飲み込む横島。
その手が、ゆっくりと風子のシャツの裾に触れ、止まる。
彼なりの葛藤があるのだろう。
その位置からぴくりとも動かぬまま時が過ぎるが、唐突に、横島が叫びだした。
「っていうか無理っ! 据え膳食わないとかこの横島忠夫にそんな真似ありうるかボケえええええええええええええ!」
ぐあばっと風子にのしかかりかけた所で、横島は後頭部を強打された。
「ごふぁああああああ!」
「こ、こんな下衆野朗、見た事が無い……それでも、殺すなんて出来るはずもないか」
完全に意識を失いひっくり返った横島を他所に、突如現れ横島の後頭部をぶん殴った清麿は、風子をゆすぶり意識を取り戻させる。
当初、呆とした意識のまま清麿の話を聞いたため、風子はひどく動揺していたのだが、そこはそれ、意識がはっきりしていくなり自分を取り戻していくのは流石に荒事慣れしてるだけはある。
すぐにやらなければならない事が山積みだったので、迷ったり悩んだりしている暇が無いというのも良い方向に働いたようだ。
情報交換もそこそこに、最低限やるべき事だけを確認する清麿と風子。
ドットーレが校舎の外で何やらしている間に、清麿と風子はぶっ倒れた横島を抱えてこの場を逃げ出した。
「おい、清麿っつったよな。まともに追われたら逃げ切れねえぞ」
「わかってる。手は用意してあるさ」
清麿が校舎内に入り込めたのは、学校内の地下下水施設を伝ってきたおかげであった。
なので、出る時もこれを用いた訳だ。
「へぇ、良くこんなの見つけたな」
「この小学校は調べつくしておいたからね。拠点に出来ればと思ったんだけど……もう無理か。ともかく、一度この場所を離れないと」
「わかった。……一応、先に聞いとくけど、コイツどうする?」
コイツこと横島の所業を、風子は清麿から伝え聞いている。
スケベで腰抜けで根性無しの外道とか、どうすればいいんだと。
「……放逐するには危険すぎる。となると連れて行くしかないんだよなぁ……」
「ま、これ以上悪さ出来ないよう痛めつけておくってのが妥当な所じゃねえのか」
そうだな、と頷いた清麿の表情が、何かちょっとそれまでとは雰囲気が違かったので、風子は一度清麿の顔を見直したが、別段変な顔はしていなかった。
露天などで使う発電機に、清麿がとぽとぽと燃料を入れている時、横島は目を覚ました。
「おっ、目覚ましたみたいだぜ」
風子の声に横島は答えようとして身じろぎするが、そこで、体中が縛られて動けない事に気付く。
「え? あれ? 風子ちゃん、何か俺身動き出来ないみたいなんだけど……」
風子の表情は、全然笑っていなかった。
「よー横島。聞いたぜ、気を失ってる私に手出そうとしてたんだってな」
「なっ! 何故それを! ち、違うんやああああああああ! あれは若気の至りなんやああああああああ! 誰にでもある甘酸っぱい青春の一ページなんやあああああああ!」
「んな寝言で乙女の純潔散らされてたまるかっ。なあ清麿」
声をかけられた清麿は、横島に背を向けたまま答える。
「ああ、まったくだ」
その声で、横島は自らの置かれた現状にようやく思い至った。
「お前! そうか、上手くやったか……ははっ! ドットーレはどうした!? 上手い事逃げ切ったのか!」
「ああ……だがおかしいな。その言い草。まるで、俺を吹っ飛ばしたのはアンタが狙ってやった事で、後から俺が風子さんを助けに行くとわかっていたとでも言わんばかりじゃないか」
「そうそれ! いっやぁ、お前頭良さそうだと思ってたけど、やっぱりキレる男は違うな! よっ! 男前! あれだけで俺の意図を察してくれるとは……」
「じゃあ何で教室で風子さんに襲いかかろうとしてたんだ」
「溢れ出る若さの現れなんやああああああああ! 堪忍やあああああああああ! おっぱいは男のワンダーランドなんやああああああああ」
清麿は紐を思いっきり引き、発電機に火を入れる。
「だそうだけど、風子さん?」
風子は首に親指を当てて、一気に真横に引いてみせた。
「へるぷみいいいいいいいいいい!」
そこでようやく清麿が横島の方へと振り向く。
実に悪い予感しかしない横島は、恐る恐るソレを口にした。
「あー、そのー、おにーさん、何か牙とか角とか生えてる気がするんっすけど……」
清麿が両手に持っているのは、鉄の棒。その先端を近づけるとばちりと火花が飛び散った。
「……もしかして、そのばちばち、人に押し付けたりしませんよね? ほら、危ないじゃないっすかそーいうの、マジで火傷とかするかもしんないし……」
清麿は、まるで躊躇をしなかった。
「こんの外道があああああああああああああ!」
発電機をぶん回し電気を発生させ、これを、清麿は拷問用具として用いているわけだ。
少なくとも清麿から見た横島忠夫とは、悪漢に脅されれば他者の殺害も厭わず、あまつさえ意識不明の女性を欲望のまま蹂躙せんとする悪辣極まりない者である。
風子の腕より風神剣を奪った事も、ドットーレの援護をしたと見られればそれまでであるし、風神剣による清麿への攻撃も、それこそ攻撃としか見ようがない。
めったくそタフと知っている横島の扱いをどうするかにおいて、弱らせて共に行動するという一種残酷にも思える選択肢を選べたのは、清麿に横島への怒りがあったせいであろう。
「おっ、目覚ましたみたいだぜ」
風子の声に横島は答えようとして身じろぎするが、そこで、体中が縛られて動けない事に気付く。
「え? あれ? 風子ちゃん、何か俺身動き出来ないみたいなんだけど……」
風子の表情は、全然笑っていなかった。
「よー横島。聞いたぜ、気を失ってる私に手出そうとしてたんだってな」
「なっ! 何故それを! ち、違うんやああああああああ! あれは若気の至りなんやああああああああ! 誰にでもある甘酸っぱい青春の一ページなんやあああああああ!」
「んな寝言で乙女の純潔散らされてたまるかっ。なあ清麿」
声をかけられた清麿は、横島に背を向けたまま答える。
「ああ、まったくだ」
その声で、横島は自らの置かれた現状にようやく思い至った。
「お前! そうか、上手くやったか……ははっ! ドットーレはどうした!? 上手い事逃げ切ったのか!」
「ああ……だがおかしいな。その言い草。まるで、俺を吹っ飛ばしたのはアンタが狙ってやった事で、後から俺が風子さんを助けに行くとわかっていたとでも言わんばかりじゃないか」
「そうそれ! いっやぁ、お前頭良さそうだと思ってたけど、やっぱりキレる男は違うな! よっ! 男前! あれだけで俺の意図を察してくれるとは……」
「じゃあ何で教室で風子さんに襲いかかろうとしてたんだ」
「溢れ出る若さの現れなんやああああああああ! 堪忍やあああああああああ! おっぱいは男のワンダーランドなんやああああああああ」
清麿は紐を思いっきり引き、発電機に火を入れる。
「だそうだけど、風子さん?」
風子は首に親指を当てて、一気に真横に引いてみせた。
「へるぷみいいいいいいいいいい!」
そこでようやく清麿が横島の方へと振り向く。
実に悪い予感しかしない横島は、恐る恐るソレを口にした。
「あー、そのー、おにーさん、何か牙とか角とか生えてる気がするんっすけど……」
清麿が両手に持っているのは、鉄の棒。その先端を近づけるとばちりと火花が飛び散った。
「……もしかして、そのばちばち、人に押し付けたりしませんよね? ほら、危ないじゃないっすかそーいうの、マジで火傷とかするかもしんないし……」
清麿は、まるで躊躇をしなかった。
「こんの外道があああああああああああああ!」
発電機をぶん回し電気を発生させ、これを、清麿は拷問用具として用いているわけだ。
少なくとも清麿から見た横島忠夫とは、悪漢に脅されれば他者の殺害も厭わず、あまつさえ意識不明の女性を欲望のまま蹂躙せんとする悪辣極まりない者である。
風子の腕より風神剣を奪った事も、ドットーレの援護をしたと見られればそれまでであるし、風神剣による清麿への攻撃も、それこそ攻撃としか見ようがない。
めったくそタフと知っている横島の扱いをどうするかにおいて、弱らせて共に行動するという一種残酷にも思える選択肢を選べたのは、清麿に横島への怒りがあったせいであろう。
「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!」
下水道のある地下での出来事であり、音が外に漏れないのは確認済み。その辺清麿さんは如才ない。
さんざっぱらビリビらせた後、清麿は押し付けていた二本の鉄棒を床に置いた。
脳まで真っ黒になった気がする横島は、虚ろな目で清麿を見て、こう、漏らした。
「……ヤロウ……燃料追加してやがる……」
再度発電機に燃料入れなおした清麿が、悪鬼羅刹の表情で放電を再開する。
風子からもちょっと引いているような気配が感じられるが、清麿はまるで止まる気配が無い。
さんざっぱらビリビらせた後、清麿は押し付けていた二本の鉄棒を床に置いた。
脳まで真っ黒になった気がする横島は、虚ろな目で清麿を見て、こう、漏らした。
「……ヤロウ……燃料追加してやがる……」
再度発電機に燃料入れなおした清麿が、悪鬼羅刹の表情で放電を再開する。
風子からもちょっと引いているような気配が感じられるが、清麿はまるで止まる気配が無い。
「ぎゃはうあああああああああああああああ!!」
さしもの横島も意識を保つ事が難しくなる程の電撃は、もうこれこの状態で下手な事されたら性癖すら変化しかねねーぞな勢いであった。
それでも、終わりの無い夜はない、抜けないトンネルはなく、こんな地獄も終わりの時は来る。
再び鉄の棒二本を床に置いた清麿に、横島は安堵の息を漏らす。いや、漏らしかけた。
「……ヤロウ……棒持つの疲れたもんで一休みしてやがる……」
ぶらぶらと振っていた両腕から痺れが取れた清麿は、再度悪鬼の表情で鉄の棒を押し付ける。
それでも、終わりの無い夜はない、抜けないトンネルはなく、こんな地獄も終わりの時は来る。
再び鉄の棒二本を床に置いた清麿に、横島は安堵の息を漏らす。いや、漏らしかけた。
「……ヤロウ……棒持つの疲れたもんで一休みしてやがる……」
ぶらぶらと振っていた両腕から痺れが取れた清麿は、再度悪鬼の表情で鉄の棒を押し付ける。
「うふぅああああああああああああああああ!!」
それでも死なない程度で済ませられるのは、超がつく天才の清麿が医学を少なからず学んでいたおかげであると思われる。
だからと横島が感謝する気になれるかどうかは別の話だが。
だからと横島が感謝する気になれるかどうかは別の話だが。
ドットーレが横島の裏切りに気付いたのは、かなり後になってからだ。
あの手の者が一度恐怖に屈した相手に逆らうというのは、中々に考えずらい。
故に油断していたせいもあってか、あっさりさっくりと、裏をかかれあの女共々影も形も見られない。
まさかと思い清麿が吹っ飛ばされた場所も見に行ってみたが遺体もなく、着地跡を見る限り絶命したとも思えない。
「つまり……オレが、あの人間に一杯食わされたと……いうわけか。あの、何処までも下らん人間に……」
その後のドットーレの激昂は筆舌に尽くしがたい。
小学校が丸々一つ、半壊してしまう程の大暴れでようやく、落ち着きを取り戻す程であったのだ。
あの手の者が一度恐怖に屈した相手に逆らうというのは、中々に考えずらい。
故に油断していたせいもあってか、あっさりさっくりと、裏をかかれあの女共々影も形も見られない。
まさかと思い清麿が吹っ飛ばされた場所も見に行ってみたが遺体もなく、着地跡を見る限り絶命したとも思えない。
「つまり……オレが、あの人間に一杯食わされたと……いうわけか。あの、何処までも下らん人間に……」
その後のドットーレの激昂は筆舌に尽くしがたい。
小学校が丸々一つ、半壊してしまう程の大暴れでようやく、落ち着きを取り戻す程であったのだ。
【B-3 市街地地下下水道/一日目 朝】
【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実、風神剣@YAIBA
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実、風神剣@YAIBA
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。
【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:健康、錯乱
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:健康、錯乱
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。
【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。縛り上げられている。
[装備]:なし
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。縛り上げられている。
[装備]:なし
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。
【B-2 小学校/一日目 朝】
【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
076:横島忠夫、清麿と出会う(前編) | 霧沢風子 | 105:死んだらおわり |
横島忠夫 | ||
高嶺清麿 | ||
ドットーレ | 087:二百年も待ったのだ |